2020年11月26日
症例1
労作時呼吸困難を主訴とした63歳男性。
安静時SpO2 88%、労作時70%台。
労作時はRM 10L/minでもSpO2 80%
呼吸音異常なし。
D-dimerの上昇、ALPの上昇、LDHの上昇。
CT上は気管支血管側に沿ったすりガラス影、fissureの不整?小葉間隔壁の肥厚は少しあるようにも見えるが・・
refractory hypoxemiaがあり、D-dimerの上昇などから考えると血管系の異常だろう。
悪性腫瘍の有無がどうなのか
PTTMはありうる。PVODは?
心エコー上右室収縮気圧は64mmHgと上昇。
診断はPTTM
現疾患は前立腺がん。PSA↑↑
肺動脈吸引細胞診でも悪性細胞を認めた。
タダラフィル、マシテンタン+抗前立腺腫瘍薬併用で救命。肺動脈収縮圧も低下(32mmHg)。
きわめて予後不良。平均生存期間は3-4週
discussion
血管拡張薬 適応はないがどう使う?
【補足】
1991年 von Herbay Cancer
「悪性腫瘍において、肺の亜区域枝よりも末梢の細動脈への腫瘍塞栓に引き続き、内膜の線維・細胞性(fibrocelluar)肥厚により特徴づけられる病態であり、腫瘍塞栓部での凝血亢進と内膜肥厚により、肺動脈内腔の狭小化、あるいは閉塞をきたし、肺高血圧をもたらす。」
<PTTMの病理学的な特徴>
①細動脈の線維細胞性内膜肥厚 →PTTMの最も特徴的な所見
②腫瘍塞栓
③血栓の器質化、再疎通像
〇肉眼でも認識しうる太い肺動脈に認められる腫瘍塞栓→
〇血管外の浸潤巣の一部にみられる腫瘍塞栓 →これらはPTTMから除外される。
*PTTMにおける内膜の線維細胞性肥厚について
BMC Cancer 2014, 14:14
血管内の腫瘍塊のみでは肺高血圧症を惹起できない。血管内皮障害+腫瘍の内膜への付着により肺高血圧症がおこるとされる。
<PTTMの機序>
①細動脈レベルの腫瘍塞栓
②腫瘍細胞の内膜付着、内皮障害
③腫瘍細胞が局所でtissue factorなどの因子を放出
↓
㋐凝固系の活性化⇒血栓形成
㋑炎症性メディエーターやVEGFを含む成長因子⇒血管内膜の線維細胞性肥厚→血管内膜の線維化
↓
㋐㋑により血管内腔の狭小化・閉塞 → 肺高血圧症 DIC
<PTTMの進展経路>
1.大静脈系へ腫瘍が直接浸潤→右心系→肺動脈
2.腫瘍の所属リンパ管浸潤→胸管→上大静脈→右心系→肺動脈
フロアから、「末梢の採血で腫瘍細胞が認められるのか」という質問があったが、上記の進展経路を考えると末梢血での診断は難しいだろう。肺動脈吸引細胞診が重要。
症例2
86歳男性
1週間前からの倦怠感、食思不振で受診。検査前のvital checkでSpO2低下を認めた。
発熱あり。WBC 8870/μl、Neu 81.2%、CRP 19.9 mg/dl
CT画像は上葉から下葉にかけてすりガラス影、traction bronchiectasisもある。
この時期ならやはりCOVID-19を疑う。でなければIPか他のウイルス性肺炎など。
SARS-CoV2 PCR陽性。診断はCOVID-19。