2013年2月15日金曜日

Acute respiratory distress syndrome: from TRALI to trials

The Lancet Respiratory Medicine, Early Online Publication, 14 January 2013より

急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は,敗血症または重篤な外傷のようなさまざまなよく報告された臨床状況で生じることがあるが、輸血関連の急性肺損傷(TRALI)はあまりわかっていない。
2012年は、ARDSのこの重要な原因に関する発生率と危険因子を明らかにするため、大規模かつ,十分に設計された、2つのセンターの前向き観察研究の公表から始まった。
病院に通院している患者の観察を通して、TRALIを有する89例の患者が同定され、輸血を受けた164人の対照群とマッチさせた。
女性の提供者からの血漿または全血(packされた赤血球でない)の輸血,HLAクラスII抗体と抗ヒト好中球抗原抗体の輸血量は、TRALIに対する独立危険因子であった。
アルコール誤用、喫煙状態、ショック、ピークの気道内圧、陽性体液平衡、肝臓手術とインターロイキン8レベルを含むレシピエント因子も、この損傷のリスクに影響を及ぼした。
ドナーおよびレシピエント因子がTRALIのリスクに関与するという発見は、TRALIの発生はレシピエントにおける根本素因が血液製剤の輸血によって強化される二段階プロセスであるという仮説を支持する。
HLA IIに対する抗体または輸血された血液中の好中球は、基礎をなすリスクの主要強化因子であるようにみえる。
おそらく女性の提供者からの血漿の輸血が減少したため、その研究期間中にTRALIの総発生率は減少した。
10 000単位当たりの輸血における発生率は、2006年2.57例,2009年0.81例と50%以上減少した。
TRALI発生率のこの急激な減少は、ARDSの病原的な機序のよりよい理解が,いかに有効な予防のため標的とした介入をもたらすかを示している。
ARDSのいくつかの大規模な多施設臨床試験は、2012年に発表された。
β-アゴニスト肺障害試験(BALTI-2)は、ARDS患者における静脈内β2アドレナリン作動薬(サルブタモール(別名アルブテロール))の無作為プラセボ対照試験であった。
本研究は、β2アドレナリン作動薬が肺胞の水分クリアランス率を加速し,肺水腫の消失を強化できることを示唆した大規模なpreclinical evidnence,及びARDS患者において血管外肺水分とplateau pressureの有意の減少を示した静脈内サルブタモール投与の小規模第2相臨床試験からの有望なデータに基づいた。
BALTI-2において、安全性の懸念のためrecruitmentを中止する前に、162例のARDS患者はサルブタモールに,そして164例の患者はプラセボにランダムに割り当てられた。
サルブタモールは、プラセボと比較して有意に28日死亡を上昇させた.(サルブタモール群は55例[34%]の死亡に対して、プラセボ群は38例[23%]死亡.(危険率1.47、95%CI 1.03-2.08).
これらの所見は、2011年に発表された米国立心肺血液研究所のARDS Clinical Trials Networkによるサルブタモール対プラセボ吸入の他施設共同無作為試験と一致した.その研究は2011年に発表され,282例のALIとARDS患者において試験が行われ,サルブタモールに臨床的benefitが認められなかった(サルブタモール対プラセボの死亡率は23.0%対17.7%; p=0.30).
また、2012年に発表された、1000例のARDS患者における早期と後期の経腸栄養法に関する無作為試験において,どちらの方法も臨床的有益性を示さなかった。
両方のfeeding戦略は忍容性が高かったにもかかわらず、初期のfull-feeding群はより多くの嘔吐,高い胃残気量,便秘とより高い血漿ブドウ糖値,平均的1時間ごとのインシュリンの投与があった。
2012はARDS臨床試験の期待外れの年であったにもかかわらず、地平線には新しい治療法があり楽観的である。
特に、ARDSに対する細胞治療は有望かもしれない。
間葉系幹細胞(MSCs)は、stroma(間質)由来の線維芽様細胞である。強力な免疫調節性と、修復能を有することが理解されつつある.
MSCsは、すでに心血管および神経性疾患、糖尿病、移植片対宿主病と多くの肺疾患の対して臨床試験中にある。
初期相の研究において,MSCsは低免疫原性で、ほとんど毒性がないことを示唆している。
MSCsはさまざまな機序を通してARDSと敗血症において有効かもしれない。それは内皮および上皮機能と修復の強化と,自然免疫の強化を含む。
2012年にMSCsのさらにいくつかの防御機構が報告された。
大腸菌肺炎のマウス・モデルにおいてMSCsの気管内投与を行うと,細菌クリアランスと生存が改善した。
MSCsの静脈内投与を行ったグラム陰性腹膜炎のマウス・モデルにおいて,細菌クリアランスと生存が改善した。一部は血液単球の貪食活性を強化することによってである.
強化された細菌クリアランスに加えて、MSCsからのミトコンドリア転送が回復した正常な生体エネルギーによってエンドトキシンにより傷害された肺上皮を救うことができることを示唆する。そして上皮性関門特性の改善とサーファクタントの分泌能の改善を伴った.
敗血症とARDSにおけるMSCsの潜在的有益効果は増大しつつあり.それはこれらの複合臨床症候群に対して幹細胞が集学的治療を提供することができることを示唆する。
MSCsの第1相試験は、重篤な疾患におけるこの治療の安全性を確立するために,ARDSと敗血症に対して現在計画中である。
最後に、2012年のARDSのための新しい定義を示そう。
急性の呼吸窮迫症候群(ARDS)が1967年に最初に報告されて以来、臨床医と研究者はいかにこの複雑な臨床症候群を定義するかについて闘ってきた。
1994年に、アメリカのヨーロッパのコンセンサス会議(AECC)は、酸素化と胸X線撮影所見に基づく診断基準を確立した。それによってその後臨床試験における標準化が改善された.
AECC定義に欠点が認められたため、Berlin study groupは2011年に数回会合を行い,AECC定義を改定し,2012年版ARDSベルリン定義として刊行した.
AECCクライテリアの変更点は,症状発現して1週以内の急速な発症と,侵襲的または非侵襲的呼吸管理の必要性を最低限含む。
かつてALIという用語は,軽症のARDSに対して使用されてきたが,300mm Hg以下のP/F ratioの患者はすべてARDSという用語を用いることになりALIという用語は廃止された.重要度は低酸素血症の程度で評価され,軽症,中等症,重症に分類された. 
これらの分類によって定義される重症度は、いくつかのretrospectiveなコホートで、臨床転帰と相関することが示された。その所見は臨床試験における患者の選択に役立つかもしれない.