N Engl J Med 2011; 365: 1184-92.
ECLIPS試験
背景
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の鍵となる特徴はFEV1の加速度的な低下率である.しかし、この変化のvariabilityとその決定因子に関するデータは不足している。
方法
我々は3年間,2163例の患者における気管支拡張剤投与後のFEV1の変化を解析した。
ランダムな係数モデルは、経時的なFEV1レベルとそれらの変化の予測因子となりうる因子を評価するのに用いられた。
結果
FEV1の平均(±SE)変化率は、1年につき33±2mlの低下であり,患者間で有意の変動があった。
患者間の低下率の標準偏差は、1年につき59mlであった。
3年の間、患者の38%は年間40ml以上のFEV1の低下があった. 31%は年間21~40mlの低下があり、23%は年間20mlの減少から20mlの増加があった.そして、8%は年間20ml以上の増加があった。
FEV1の平均低下率は、current
nonsmokerよりもcurrent smokerにおいて年間21±4ml大きく、気腫のない患者よりも気腫のある患者で年間13±4ml大きく、気管支拡張剤による可逆性のないものより,可逆性を有する患者で、年間17±4ml大きかった。
結論
COPD患者間のFEV1変化率は、非常に変化があり,current smoker、気管支拡張剤に対する可逆性を有する患者,気腫のある患者において低下率が増加していた.
背景
1970年代のFletcherらによる研究から,COPDがFEV1の加速度的低下によって特徴づけられることが広く認識されている.
しかし,驚くべきことに,経時的なFEV1の低下に関するコホート研究や,FEV1の変化とCOPDサブグループや全身的バイオマーカーとの関連を報告した研究はない.
我々はCOPD患者の3年にわたるFEV1の変化について調査し,これらの変化が,患者サブグループで異なるか?FEV1の変化を予測するバイオマーカーがあるか?について検討した.
我々の研究は
Evaluation of COPD Longitudinally to
Identify Predictive Surrogate Endpoints (ECLIPSE) observational studyで集められるデータに基づいた.登録患者
40-75歳,10 pack-years以上の喫煙歴があること.FEV1%-G<70%かつ%FEV1<80%である(いずれも気管支拡張薬吸入後).
Baseline, 3か月後,6か月後,以後6か月ごと来院.計3年間.
来院ごとに肺機能検査(SABA吸入前後),急性増悪回数の調査,GOLDによるstageの評価を行った.
Baseline時に胸部CT検査.CT計測による肺気量の測定.
急性増悪:COPDの症状増悪があり,抗菌薬,ステロイド剤の単独治療または併用治療が必要,または入院が必要な状態.
サブグループ
気腫,慢性気管支炎,気管支拡張薬に対する可逆性,心血管疾患 によってサブグループに分けた.
C Bの診断は少なくとも2年間に3か月以上の痰があること.
可逆性あり=FEV1がベースラインより12%増加,かつ200mlの改善.
FEV1の変化と血中CRP, IL-8,
IL-6, fibrinogen, TNF-α, surfactant protein
D, and Clara cell secretory protein 16 (CC-16)レベルの関係も評価した.
結果
Abstractに追加することとして
GOLD 2 平均低下率 35±1ml /yr
GOLD 3 平均低下率 33±1ml /yr
GOLD 4 平均低下率 25±2ml /yr
(P=0.17 for stage 2 vs. stage 3, P<0.001 for stage 2 vs. stage 4, P=0.009 for stage
3 vs. stage 4)
死亡例が10%,中断例が13%あったが,完遂例と比較してFEV1平均変化率に有意差なし.
本研究で観察される肺機能の低下はTiotropium(UPLIFT)試験にて報告された結果と実質的に異ならない。UPLIFT試験では4年にわたるFEV1の年間平均低下率は41ml/yrであった。
本試験の限界
・軽症COPDが含まれていないので,これらの症例の肺機能低下率と関連する因子を見つけることができない.
・すべての患者がCOPDの治療を受けていた.もちろんFEV1の低下率を減少させる薬剤はないが,TORCH試験の二次的解析では定期的な治療で低下を減少させる可能性があることが示されており,また類似の兆候はUPLIFT試験におけるサブグループ解析で明らかであった.
我々の研究で評価される患者の約15%は、3年間肺機能を改善した。これが予測されるstatistical
distributionなのか,治療に対する真の反応を意味しているかは不明である.
Lung Health Study(今回のstudyと比較して軽症の患者が含まれる), ISOLDE study(今回のstudyと比較して重症の患者が含まれる)とも可逆性と,低下率との関係は示されなかった.
CC-16のみがFEV1低下率と関連.しかし関連は弱く,生物学的に意味があるかは明らかでない.
結論
・今回の研究では患者の半分以上において、FEV1の3年にわたる低下率は、肺疾患のない患者と同程度であった。この発見は, COPDが,“burn out”したか,または3年以上少なくとも安定していることを示している.それは患者にとってよい知らせで、それは予後に影響する種々の管理に影響するであろう。
・喫煙の影響.
・今回の研究結果は,COPDにおいて肺機能の進行性の低下は避けられないという概念に挑戦するものである.COPDの経過に関する概念の見直しに関心を引き起こすであろう.