2012年11月8日木曜日

誤嚥性肺炎と器質化肺炎

近くの急性期病院から誤嚥性肺炎+器質化肺炎にて転院となったcaseがあった.ご高齢で全身状態が悪いときBALはできない.ステロイドが効いたので器質化肺炎→主治医の気持ちは十分わかるが,減量を依頼される側からするとなんだかなー.何とかならんか診断が.
ということで,

BOOP due to gastroesophageal reflux and occult aspirationの症例がNEJMのMGH case recordsに報告されているので紹介したい.ちなみに画像は典型的なreversed halo singを示している.

Case 15-2003: A 47-year-old man with waxing and waning pulmonary nodules five years after treatment for testicular seminomaN Engl J Med 2003;348:2019-27.

・Seminomaの治療の数年後増悪,消退を繰り返す肺病変にて病院を受診.
・5年前にtesticular seminomaにてope.再発の所見なし.1ヶ月にわたってiliac, para-aortic, paracaval LNに対して2970cGyradiation治療を行った.
・中等量のアルコール摂取.喫煙歴なし.自覚症状はsevere, recurrent heart burn
・体重は102.7 kg
・heart burnに対して制酸剤が処方された.

Differential diagnosis
鑑別診断は多様.
LYG (lymphomatoid granulomatosis)low gradenon-Hodgkin’s granulomaで,EB virusとの関連がある.陰影の消退を繰り返す肺の結節影を示すことがある.
BOOP:肺実質を傷害する様々な疾患と関連してみられる(Table 2).ほとんどの症例は特発性であるが,先行する気道感染の後に出現した症例もある.
 胸部CT画像:90%が斑状のconsolidationで,一般に分布は胸膜直下,気管支周囲,またはその両者に存在する.結節影と不整の線状陰影も40%ほどの患者に認められる.すりガラス陰影は60%の患者に認められ,ふつうはランダムな分布をとる.浸潤影は移動性で,wasing and waning characterを呈する.胸水やリンパ節腫大はまれである.末梢の結節影またはmass様陰影を示した報告もある.

 本症例は誤嚥の明らかな証拠はなかったが,臨床症状より誤嚥の可能性があった.誤嚥により2次的に発症したBOOPの報告は文献的にない.「びまん性誤嚥性細気管支炎」はforeign particlesの繰り返す誤嚥により引き起こされる細気管支の慢性炎症と定義されるが,4880例のautopsyのうち31例で認められた.しかしその多くは明らかな誤嚥の証拠がなかった.胃食道逆流の治療を行った5例中4例でBOOPが改善した報告がある.更に心肺移植を行った患者において,胃からの逆流はBOの原因になることが考えられている.
まとめると,BOOPの原因として慢性的に繰り返す誤嚥が考えられる.しかし本症例の肺病変の原因は臨床,画像所見より決めることはできない.確定診断と他の原因の鑑別にVATSが推奨される.

Pathological discussion
VATS下生検施行.触診および,CT画像から2か所のわずかなnodular areasを見つけ,wedge excision施行.
顕微鏡所見
Fig3A  境界不明瞭なリンパ組織球による炎症性結節を認めた.
Fig3B  結節内の細気管支および肺胞管は粘液性線維組織の分岐した房で満たされていた.すなわちこの分岐状のパターンは,線維化が気道内に存在することを示していた.この所見はBOの所見を構成する.
Fig3C 組織球は疎な集簇を形成し,foreign-body typeの多くの多核球性組織球が存在した.肺胞内のリンパ組織球性炎症はOPの所見を示した.以上の所見を合わせると,BOOPの存在が示される.
Fig3D 多核球性組織球を伴う2,3compact granulomaが主要な炎症性結節から離れて存在している.

この症例で認められたcompact granuloma,BOOPにおいて,それが過敏性反応による時にのみ認められる.BOOPの所見としてはまれである.本症例で認められる多核球性組織球は誤嚥性物質に対する異物反応(foreign-body reactions)を示唆している.→診断としてもっとも考えやすい.誤嚥は動物モデルにおいて細気管支炎の原因となることが知られている.Case reportはまれであるがBOOPの原因として考慮される疾患である(文献21, 31, 32).

Table 3
Aspiration material
oropharyngeal bacteria
gastric acid
food particles
foreign bodies

Aspirationによる肺疾患
Aspiration materialの種類と量により
acute
subacute
chronic
に分類される.
Subacuteな経過をたどるものとして,
Miliary granulomatosis, Diffuse aspiration bronchiolitis, BOOPがある.
Miliary granulomatosisfocalな肉芽種性炎症のパターンで,X線画像およびマクロ所見が結核に類似した肉芽種病変である.そしてそれはvegitable particleの誤嚥による.
Diffuse aspiration bronchiolitisは病理学的に細気管支における異物反応を伴う気道壁の慢性炎症と定義される(文献26).その発症は誤嚥性肺炎よりもincidiousなため,臨床的に誤嚥と認識されないことがある.

Aspiration pneumoniaとして典型的でない点
本症例の病変の多くはanterior upper lung lobeに存在している.Tree-in-bud opacificationが見られない,など.

本症例は24時間pHモニターにて重症の胃食道逆流症を示した.肺生検の11か月後に腹腔鏡下Nissen噴門形成術を行い,肺病変の再発は見られなくなった.


誤嚥があるかどうかの証明はできなかったが,多核球性組織球の存在と,compact granulomaの存在が誤嚥を支持した.
ステロイド投与の記載はなく,GERDに対する外科治療にてBOOPの再燃がなくなったようである.
本症例のBOOPが誤嚥による2次的な病変(誤嚥に対する反応)であるとすれば,誤嚥がコントロール可能ならCOPのような長期のステロイド投与は必要ない?.