2012年8月22日水曜日

Pleuroparenchymal fibroelastosis:網谷病についてERJの論文を読む


Pleuroparenchymal fibroelastosis: a spectrum of histopathological andimaging phenotypes
Eur Respir J 2012; 40: 377–385.

Pleuroparenchymal fibroelastosis (PPFE)は上葉優位の胸膜と胸膜直下の肺実質の線維化を特徴とするまれな疾患である.後者は肺胞内に存在し,肺胞壁のelastosisを伴っている.この研究の目的はこれまでpublishされた画像と組織学的なクライテリアをみたす症例をレビューし,かつて特発性とみなされてきた病態に関する基礎的な病因を示唆する共通の臨床的特徴を見つけることである.

12例の患者(7例が女性,5例が男性,年齢中央値は57歳)において,症状は息切れ(12例中11例)と乾性咳嗽(12例中6例)であった,7例は繰り返す感染症を認めた.2例はILDの家族歴があった.

胸膜肺実質病変から離れた肺病変のHRCT画像は,12例中6例に認められた(共存する線維化,n=5; 気管支拡張症,n=1.下葉から組織検体の得られた患者7例のうち,4例は弱いPPFEの変化が認められた(1例はHPの病変も認めた),そして3例はUIPを認めた.

PPFEは独立した臨床病理疾患であり,臨床データは繰り返す肺感染症との関連を示唆している.遺伝的,自己免疫的機序もこれらの変化の進展に寄与しているかもしれない.PPFEはまた,過去の報告よりもびまん性に障害がみとめられ,ILDの異なったパターンが共存しているようである.


PPFEの報告は1992年,網谷らによる日本語の文献が最初である.この報告ではidiopatic pulmonary upper lobe fibrosisとして報告されている.

病因は不明で,ほとんどの症例は特発性とみなされているが,家族性が少数,また骨髄移植の既往に関連した症例の報告もある.

PPFEの診断クライテリアに関して明らかな定義がない.真に特発性とみなしてよいか否かについても.

 従って,この研究の目的は,PPFEpublished criteriaを満たす患者の病理学的,放射線学的所見を評価し,病因となりうる臨床データをレビューすることである.

方法

病理記録の中から,“intraalveolar fibrosis, pleuroparenchymal and fibroelastosis で検索.
その後以下の分類を行った.
definite PPFE”
上葉の胸膜線維化があり,胸膜直下の肺胞内に線維化があり,胞隔のelastosisを伴っている.
consistent with PPFE”
肺胞内線維化が存在するが,①それに伴う有意な胸膜線維化がない,②胸膜直下に有意ではない,③上葉の生検組織内にみられない.
inconsistent with PPFE”
上記の必須の特徴が欠如している

組織学的材料を有する30例の患者のうち、21例の患者にはレビュー可能な高解像度コン
ピューター断層撮影(HRCT)画像があった。そして、解析は2人の放射線科医によって行われた.
30例中17例が病理組織学的にdefiniteまたはconsistent21例中14例が画像上definiteまたはconsistent.
病理組織学的クライテリアを満たす17例中4例はCTのレビューがないため,除外された.HRCT画像が評価可能であった14例中,2例は病理組織学的基準を満たさず除外された.
従って最終的に12例が最終的なstudy groupとなった.

12例の対象患者(HRCT画像が評価可能でかつ病理組織学的基準を満たす)
7例は女性,5例は男性,年齢は24-85歳,中央値57
症状は息切れ(n=11),乾性咳嗽(n=6).
診断までに症状が続いていた期間は6か月から6年(平均28か月).

7例は再発性気道感染あり,3例は経過中自然気胸または縦隔気腫をおこした.

2例の患者が真菌(糸状菌)とトリの環境アレルゲン暴露を報告した.このうち1例は鳥と真菌(糸状菌)の沈降抗体陰性であった.もう一人の患者は検査を行わなかった.2例の患者で1親等にILD (1例は生検で証明されたUIP1例は画像にて疑われたNSIP/UIP)あり.抗好中球細胞質抗体陽性の糸球体腎炎に対して腎移植を行ったあとの免疫抑制状態にある1例を除いて,study groupの中で有意な薬剤使用歴があった患者はなかった.特に化学療法や放射線治療歴はなかった.骨髄移植の患者もいなかった.繰り返す感染のある7例の患者のうち4例は血清自己抗体陽性であった.アスペルギルスIgG抗体陽性の患者のうち1例は肺生検組織においてPPFEに加えてbronchocentric granulomaの小さな集簇が組織学的に認められた.自己抗体陽性の5例の患者のうち4例は,主病変から離れた間質性肺線維症の画像を有しており,その所見は初期に認められたもの(case2, 3, 8)や,その後出現したもの(case5)があった.

治療について
12例中9例に治療の記録があった.プレドニゾロンを経口で少量服用.ステロイドの追加治療をした3例中2例は高容量のM-PSLを経静脈投与した.2例が免疫抑制剤を追加.1例はcyclophosphamide1例はazathioprine2例はN-acetylcysteine1例はcyclophosphamideN-acetylcysteineを使用.2例は繰り返す感染に対して予防的抗菌薬(azithromycin)投与.1例は,生検組織よりABPAの合併が疑われたため,抗真菌薬治療を行い治療に対する反応が見られた(case 10)Follow-up dataを有する10例中7例が疾患の進行を認めた.そのうち5例が死亡し,PPFEと診断されてから死亡までの期間は4か月から2年であった.

病因に関して
半分以上の患者がこの疾患の経過の中で繰り返す感染症を認める.これは網谷(23%)Frankel(40%)らの報告より頻度が高い.1例はABPAが合併していた(組織,血清,治療に対する反応で証明).Pitucciらは最近アスペルギルス沈降抗体陽性の1例を報告している.これらのデータを総合的に考えると,繰り返す炎症性の障害がこのIAFEintra-alveolar septal fibrosis)のパターンをもたらすのかもしれない.限局性の胸膜肥厚がABPAと嚢胞性線維症患者で報告されていることは,この理論を支持する。

第二に5例の患者は自己抗体を示しており,このことは自己免疫が一部の患者における一つの因子になる可能性を示唆している.別の患者は,以前ドレスラー症候群と診断された.この疾患は自己免疫機序の関与した状態である.自己抗体の高いレベルを示した1例の患者は,腎移植の既往があった.PPFEの特徴は,骨髄移植の後に認められたという報告がある.このことはさらに疾患の進行に対する自己免疫の関与を支持する.

遺伝的傾向も病因として関与している可能性がある.我々の報告では12例中2例がILDの家族歴があった.家族歴の頻度の報告:網谷らは30%Frankelらは40%Shiotaらは57%

これらのデータのどれも単一の原因として示すことはできず,PPFEの原因の大半はおそらく特発性としてみなされ続けるであろう.しかし我々のデータからいえることは,PPFEと診断された症例は感染(特にアスペルギルス症)がないか,自己免疫疾患,家族歴がないかを調べるべきである.

我々の検討対象となったPPFE患者は,ILDが同時に存在する場合が多かった.異なった組織パターンを有する4例中,2例(生検にてUIP確定)はCTにて間質性肺線維症が同時に存在していた,下葉の線維化の画像的特徴を有する他の4例の患者においては,その病変の(second site)生検を行わなかった.2例の患者において下葉の線維化(UIP)は進行したが,上葉のPPFE病変は安定したままであったことは興味深い.さらにに特異的自己抗体陽性の5例中4例において,経過中線維化の遠隔病変の画像が示されたことは興味深い.慢性のILD患者のなかでoccult connective tissue diseaseを有していたり,その後臨床的に明らかなconnective tissue diseaseを示すようになる患者が15-20%いる.Apical cap fibrosisの患者でankylosisng spondylitisの患者はPPFEの組織学的特徴を有することが報告されている.IPFの患者において,自己抗体の上昇がみられるという報告があるが,IPF患者における自己抗体の存在は肺の炎症と障害にたいする2次的な非特異的結果を示しているのかもしれない.最後に北アメリカの患者では報告されていないが,UIPを含む共存する線維化が日本語の文献に時々報告されている.まとめるとこれらのデータは,患者が肺の線維化(それは線維化肺疾患の異なった病理組織学的パターンを示している)に対する遺伝的傾向を有しているかもしれないという概念を支持するものである.

CT所見ではなく病理組織の観点からすると,7例の患者のうち4例は肺下葉にもPPFEの特徴が得られた.しかし広範な気管支中心性の広がりが見られ,病変は軽度であった.したがってこの所見は,PPFEの病因に関連して先に述べたように,気道中心性の障害はこの疾患の病態に重要であるという概念を支持するものである.

IAFEPPFEにとって特異的なものではなく,放射線治療の結果であったり,化学療法の後であったり,吸入性の障害の結果認められることがある.IAFEの病態は十分理解されていないが,明らかにそれはPPFEを含む様々な疾患に対する肺障害の共通の経路である.IAFEの特徴はまたapical capの特徴と重なり合う.しかしapical capは解剖学的に限局しており,mass病変を形成するまれなcaseは別として,他の肺葉に対する病変の広がりはない・・・・.

この症例シリーズの限界は後ろ向き解析であることと,データが完全ではないという事実である.しかし我々はこのコホートが現在のところ西洋でもっとも大規模であり,PPFEが異なった臨床病理学的概念であることを示したと信じている.

結論
我々はPPFE12例の患者を報告した.zonal involvementの観点からいうと,その疾患は過去に報告されたものより広範に存在した.間接的データは繰り返す感染が病態に役割を果たし,遺伝的傾向や自己免疫機序の関与もおそらく伴っている可能性がある.PPFEの多くの患者が間質性肺疾患を同時に有していることは, PPFEがびまん性に存在するタイプなのか,他の間質性肺疾患が合併しているタイプなのかを考慮するようreferring clinciansに警告しなければならない.