2016年11月25日金曜日

第315回日本内科学会九州地方会

11月20日(日)
ホテル日航熊本・熊日生涯学習プラザ
早朝より病院から呼び出し。少し遅れて出席。


16
十二指腸神経内分泌腫瘍 NET G1と診断
NETG1とNETG2について

表 NETの2010年WHO分類
2010年 WHO分類核分裂像数Ki-67指数特徴
神経内分泌腫瘍(NET)NET G1<2≦2%
  • 高分化型
  • 腫瘍細胞は、腫瘍細胞は正常の細胞に似ている
  • 増殖能は低く、低~中悪性度
  • カルチノイド腫瘍と呼ばれる場合もある
NET G22~203~20%
神経内分泌癌(NEC)
(大細胞癌あるいは小細胞癌)
>20>20%
  • 低分化型
  • 腫瘍細胞は正常細胞の機能をほとんど持たず、未熟で、増殖能が高い
  • 増殖能は高く、高悪性度
  • 小細胞癌、大細胞癌に分けられる
WHO Classification of Tumours of the Digestive System Eds: Bosman FT, et al. 4th Edition, 2010
IARC Press, Lyons France

17
肺胞出血をきたしたMPA
CPA+MPSLにて治療。効果乏しくRituximab投与し救命。
フロアよりCPA+MPSL治療が効果ないと判断する根拠は乏しく、Rituximab投与は時期尚早ではないか(CPA+MPSLが効いた)との意見。
MPAno25-55%にびまん性肺胞出血あり。
2013年Rituximab保険適応。NEJM 2010;363:221-32.
RituximabのMPAに対する効果はまだ確立していない。症例の蓄積が必要。

18
ウエステルマン肺吸虫
末梢血Eos上昇を認めない症例が、全体の43.5%程度ある。IgEが上昇しない33%程度。
2001年日本呼吸器病学会雑誌

22
初回MRIが陰性であった化膿性脊椎炎
血培よりMSSA
MRI: 第2病日では陰性、第31病日では陽性。
発症2週間程度では偽陰性が10%程度ある。
2010年NEJM reviewあり

23
破傷風
確定診断は主に臨床診断。外傷歴があって、亜急性に開口障害。
敗血症と区別できないかという質問。

24
感染性大動脈瘤
総胆管結石、胆嚢結石→急性胆管炎+胆のう炎。血培からE. coli分離。
手術が第35病日。その後も発熱。第86病日腹部CT再検にて胸腹部大動脈周囲に軟部陰影。

腹部MRI:拡散強調画像にて大動脈壁が高信号。







2016年11月10日木曜日

慢性咳嗽について

NEJM 2016;375:1544-51.
CLINICAL PRACTICE
Chronic Cough

この記事は、臨床的によくある問題に焦点を当てながら症例提示を行う。それから様々な戦略を支持するエビデンスを示し、更に公式のガイドラインが存在する場合はそのレビューを行う。そして最後に著者の臨床的な推奨を述べる。

63歳女性、1年続く慢性咳嗽。のどのイガイガ感を伴う。咳嗽の遷延性発作により腹圧性尿失禁を引き起こし、ときに嘔気と嘔吐が出現。咳嗽は気温、強烈な臭い(例えば、cleaning productsの臭い)、笑い、長びく会話で誘発される。彼女は特記すべき既往歴はなく健康で、喫煙歴もない。彼女は気管支拡張剤とステロイドの吸入・点鼻薬を処方されたが、症状は改善しなかった。身体所見、胸部X線撮影と肺機能検査結果は正常である。
あなたならこの状態をどのように評価し管理するだろうか?

THE CLINICAL PROBLEM
咳嗽は、患者が治療を求める最も頻度の高い症状である。咳嗽の罹患率は様々に報告されているが、一般集団12%ほどが慢性咳嗽を示すという報告がある。8週以上続いている咳嗽を慢性咳嗽と定義する。慢性咳嗽は男性より女性に多い。最も多いのは50歳から60年歳台に発症し、数年持続する。相当な身体的、社会的および心理的影響を伴う。患者が1日につき数百~数千回咳嗽をすることを想定すれば、慢性咳嗽の機能障害の影響は理解できる。すなわちこの咳嗽は急性ウイルス性咳嗽で生じる咳嗽の頻度と類似しているが、慢性咳嗽は数ヶ月あるいは数年の間持続するのである。大部分の患者は、咳嗽について痰はないか、あっても非常に少ないと言う。即ち過剰な痰は、気管支拡張症または副鼻洞疾患を示唆する。
慢性咳嗽は多くの一般的な呼吸器疾患(例えば、慢性閉塞性肺疾患、喘息と気管支拡張症)と、若干の一般的な非呼吸器疾患(例えば、胃食道逆流と鼻副鼻腔炎)の症状である。そして、咳はよりまれな疾患(例えば、特発性肺線維症と好酸球増加性気管支炎)患者の主症状である場合がある。咳嗽はまた多くの薬物治療の副作用ともなりうる。最も一般的なのは、ACE阻害剤による咳である。すなわちACE阻害薬で治療される患者の約20%で咳嗽が生じる。慢性咳嗽患者は様々な病院にやってくる。そして速やかに症状が改善しない場合、これらの患者は診断と治療を求めて多くの病院や多くの医師のもとへ行く可能性がある。プライマリケアにおける患者の、慢性咳嗽の自然史はこれまで十分に調査されてこなかった。しかし、専門クリニックで診断がつかず、7年以上後に再評価された慢性咳嗽を有した一連の患者において、咳嗽は14%で自然寛解し、26%で減少した。

KEY CLINICAL POINTS
慢性咳嗽
・慢性咳嗽(咳嗽が>8週を超えて続く)は、一般的であり機能障害性にもなりうる。
・慢性咳嗽は多くの呼吸器疾患の特徴である。そして、一般的な誘因(喘息、胃食道逆流と後鼻漏)は検査によって、または治療によって通常除外されなければならない。
調査と治療アルゴリズムは主に合意した意見(consensus opinion)に基づく。そして無作為試験によって、より多くのデータが必要とされる。
・臨床試験からの限られたデータではあるが、低用量モルヒネ、ガバペンチンまたはプレガバリンと言語療法は、他の検査と経験的治療を行っても持続する咳嗽患者に対して有益であることが支持されている。
・より新しいエビデンスによると、咳嗽反射過敏症が慢性咳嗽の基礎をなすことを示唆している。しかし、その機序とそれに関連した治療の可能性に関するより多くの研究が必要である。

STRATEGIES AND EVIDENCE
専門のガイドラインは、慢性咳嗽の評価と管理に対する系統的アプローチを述べている;
これらのガイドラインは、医学文献から得られた合意意見と観察的なデータに広く基づいている。医療業務の供給、診断検査の利用、処置戦略は国家間で違いがあるにもかかわらず、咳嗽のアプローチは概ね4つの主要なステップに単純化することができる(図1)。

ステップ1IDENTIFICATION AND TREATMENT OF OBVIOUS CAUSE
明かな原因の同定と治療
患者の事前評価には病歴、臨床検査、胸部X線撮影と肺活量測定が含まれるが、この評価によって慢性咳嗽の基礎をなす可能性がある広範囲にわたる病態を確認し、除外することができる。そして、その病態の初期管理はどんな陽性所見によってでも導かれなければならない。病歴と身体所見は、ACE阻害薬のような薬物、喫煙または職業性曝露、重篤な基礎疾患を示唆するあらゆる症状や徴候(例えば、体重減少または喀血。どちらの症状も肺癌に関する懸念を引き起こす可能性がある)を記載しなければならない。喘息は、しばしば喘鳴の既往歴によって示唆される;しかしながら一部の喘息患者は、喘鳴はないか軽度である。即ち。そのような病態を“cough-variant asthma”という。そのような症例に肺機能検査を行うと、気管支拡張剤にて改善する閉塞性パターンが明らかになるかもしれない。異物吸入の可能性がある場合、緊急検査は是認される。

ステップ2FOCUSED TESTING FOR AND TREATMENT OF ASTHMA, GASTROESOPHAGEAL REFLUX, AND RHINISINUSITIS
喘息、胃食道逆流症。鼻副鼻腔炎の検査
胸部X線撮影と肺機能検査が正常な状況では、慢性咳嗽を伴う最も頻度の高い疾患は喘息、胃食道逆流症と鼻副鼻腔炎である、しかし、これらの各々の有病率は咳嗽クリニックの間でかなり変化する。
喘息症例の大部分はルーチンのスパイロメトリに異常を認めるが、気道過敏性を評価するメサコリン誘発試験は、正常肺機能を示す患者やほかに咳嗽の原因が全くない患者において適応となる。そして呼気NOのレベルもまた上昇するかもしれない。咳嗽喘息の管理を導く無作為試験からのデータは不足しているが、通常臨床経験ではICS治療に反応することが示唆されている。吸入薬は患者によっては、咳嗽を誘発する。そして、それは必然的に気道への治療の送達を抑制する。吸入deviceの変更(例えば、スペーサ装置の使用)により咳嗽が良好な反応を示す患者もいれば。12週間の経口グルココルチコイド治療が有効な患者もいる。
咳嗽と胃食道逆流の関係は、複雑であるが明らかにになりつつある。ガイドラインは慢性咳嗽患者において。酸抑制治療のトライアル。例えば最高3ヵ月間のプロトンポンプ阻害剤(PPI)による12回の治療を提案している。しかしながら、多くの咳嗽患者は症候性の胃食道逆流症を示さない。そして、咳嗽に対する逆流治療のほとんどの無作為比較試験はこの種の治療に関連して有意な改善を示さなかった。抗逆流手術(腹腔鏡によるfundoplication)が慢性咳嗽の有効な治療であるという正当な証拠も同様に存在しない。従って手術は胃食道逆流症の症状と、この病態が存在することを確認する評価に基づいて手術の基準を満たす患者を制限しなければならない。
PPIの試験からのプールされたデータの後向き分析は全体の有益性を示さなかった。しかし食道pH監視下に胸やけ、逆流または過剰な酸逆流を有する患者のサブグループは、PPI治療に対してわずかだがより反応がありそうにみえた。しかし胃食道逆流の複雑な検査(例えばpHまたはインピーダンス試験)では、酸の抑制に対する咳嗽の反応を十分に予測しない。そして、慢性咳嗽のほとんどの患者が、コントロール群と同程度の酸と非酸の逆流であり、食道近位側に到達する逆流はほとんどなかった。最近のエビデンスは慢性咳嗽において逆流物が喉頭または咽頭に入るか、わずかに誤嚥し気道内に入るという考えを支持しない。咳嗽患者の喉頭では炎症性変化がしばしば認められ、それは近位胃食道逆流(proximal gastroesophageal reflux)即ち“咽喉頭反射”の徴候と考えられている。しかし、重篤咳嗽患者にはしばしば喉頭に外傷性炎症性変化があり、“咽喉頭反射”の喉頭徴候とする考えに関して研究者の間で十分な同意はない。慢性咳嗽患者の約50%において、逆流と咳嗽の間の相当な時間的関係が存在する。それは逆流物の酸性度にかかわりなく、偶然と予想されるよりもより多いせきの発作に先行する遠位逆流(distal gastroesophageal reflux)の"生理学的"エピソードを伴う。これは、異常なレベルの遠位または近位逆流はなく、遠位食道と気道の間のニューロン・クロストークが咳嗽を誘発しうる。したがって迷走神経経路の感作が異常の基礎をなすかもしれないということを示している。
慢性咳嗽患者は、しばしば後鼻漏の感覚を報告する。ガイドラインは点鼻グルココルチコイドと抗ヒスタミン剤をアレルギー性鼻炎と慢性咳嗽患者に推薦している。しかし、このアプローチをサポートする無作為比較試験は不足している。そして、臨床経験はこの治療に対する反応がしばしば期待外れであることを示す。慢性副鼻腔炎が確認されるとき、患者は抗菌薬と副鼻洞または中隔の手術を提案されるかもしれない。しかし、鼻疾患の外科的療法が咳嗽の改善をもたらすという客観的なデータはない。

ステップ3INVESTIGATION TO RULE OUT RARER CAUSES OF COUGH
咳嗽のまれな原因をr/oするための検査
(診断的検査又は治療トライアルに基づいて)喘息、鼻疾患と胃食道逆流が除外された患者において、慢性咳嗽を示し治療に反応する他の疾患を考慮しなければならない。そして可能なら咳嗽専門クリニックに紹介しなければならない。慢性咳嗽を伴う疾患は閉塞性睡眠無呼吸、好酸球性気管支炎、扁桃増大と再発性扁桃炎がある。そして、外耳疾患は迷走神経の耳介枝を通して咳嗽を引き起こす。咳嗽が治療に反応しない場合において、胸部のHRCTは単純胸部X線では見えない実質性肺疾患(例えば、肺線維症、気管支拡張症またはサルコイドーシス)を除外するために勧められる。気管支鏡検査はCTスキャンでは見落とされる可能性のある気管気管支軟化症、慢性気管支炎とtracheopathia osteochondroplasticaのような疾患を確認するのに用いられる。我々の専門診療において、鑑別が明白な胸部X線撮影、肺機能試験(メサコリン誘発試験を含む)、経験的逆流治療と耳鼻咽喉頭評価の後不明なままだった患者において、約10%が気管支鏡検査で異常が認められた。しかし、異常所見が咳嗽を説明したかどうかは不確かである。癌の疑いがある症例や異物吸入を除外する必要のある症例において、迅速な気管支鏡検査法は示される。気管支鏡検査法はまた、誘発喀痰が利用できない場合や好酸球性気管支炎を評価するためのサンプルを得る機会となる。好酸球増加性気管支炎は、気管支過敏性がなく、喀痰好酸球比率は3%以上で。PEFRは変動する場合に示唆される。この疾患は専門咳嗽クリニックに現れる患者の最高13%を占めると報告され、しばしばグルココルチコイド治療にしばしば反応する。現段階で確認される他のいかなる疾患も、確認された疾患の標準的ガイドラインに従って治療されなければならない。そしてこの治療に対する咳嗽の反応を評価しなければならない。

ステップ4MANAGEMENT OF IDIOPATHIC OR REFRACTORY CHRONIC COUGH
特発性または不応性慢性咳嗽の管理
我々の経験において、潜在的に慢性咳嗽の基礎をなしている一つ以上の疾患は、ステップ1で確認される。しかしながら、これらの潜在的原因を対象とした治療にもかかわらず、咳嗽の続く患者がいる(専門クリニックに受診する患者の42%に至る。しかし、プライマリケアでの頻度は不明である)。不応性慢性咳嗽患者は、しばしば店頭の鎮咳嗽薬に救助を求める。これらの薬剤の一部は全く活性成分を含有しないが、軽度の鎮咳嗽作用のあるメントールのように活性成分を持っているものもある。これらの治療は急性のウイルス性咳嗽に対して使用することを目的にしている。しかしその病態の治療目的であっても効果的であることを示唆するエビデンスはほとんどない。しかしながら、トローチ剤(または少量の水)に関連した嚥下は、咳嗽を一過性に抑制する可能性がある。そしてトローチ剤、シロップと蜂蜜は喉の刺激感を一時的に和らげることによって軽度の有益性を提供するかもしれない。
治療不応性であるか特発性慢性咳嗽に対してFDAまたはEuropean Medicines Agencyの承認を得た治療が現在ないにもかかわらず、ニューロン過敏症をターゲットとしたいくつかの介入は、無作為プラセボ対照試験にて効果的であることが示された。
慢性不応性咳嗽患者のプラセボ対照試験では、低用量の徐放性硫酸モルヒネ(12回、15mg)投与群はプラセボ投与群と比較して、咳嗽重症度がより低く(9ポイント・スケールで16ポイントの差)、咳嗽特異的QOLがより高いことが分かった。
症例シリーズにおいて、約36%の患者が臨床的に意味のある反応を示したが、ほぼ50%の患者は全く反応を示さなかった。トライアルと症例シリーズにおける副作用として、便秘、時に傾眠が報告された。特に現在のオピオイド乱用の流行を背景とした米国では、オピオイドの濫用または娯楽の可能性は、重大な懸念である。
慢性咳嗽患者が関係した二重盲検プラセボ対照臨床試験において、鎮痙性のガバペンチンは、プラセボと比較して咳嗽に特異的なQOLの大きな改善と、ベースラインとの比較において咳嗽重症度のより大きな減少と関連していた(100mmvisual analogue scaleにおいて咳嗽重症度の2群間の差は12mm)。臨床経験は、反応に大きな変動があることを示唆している;多くの患者では、副作用(鎮静と眩暈感または不安定を含む)はどんな有益性にも上回る可能性がある。この薬物と関連したリスクは、鬱病と自殺的な考えまたは行動を含む。ガバペンチンとそれに関連した鎮痙性薬のプレガバリンは、副作用と有効性の間の釣合いを確立するために個別的用量調整が必要である。アミトリプチリン(就寝時の10mg)は、コデイン+グアイフェネシンより咳嗽に特異的な生活の質を改善する作用が優れていると報告された;鎮静作用は、慢性咳嗽患者が眠ることをより容易にするかもしれない。
無作為、偽対照試験では、4つの構成要素(教育、喉頭刺激の減少、咳嗽コントロール技術と心理教育的カウンセリング)を含んでいる言語病理学治療もまた、不応性慢性咳嗽患者において咳嗽重症度と生活の質を改善することが示されもした。成功した治療法の必須の部分を理解するためにより多くのデータが必要である。抗痙攣薬プレガバリンを言語病理学治療に加える効果を評価した最近の無作為比較試験では、プラセボを投与された患者と比較してプレガバリンを投与された患者は、咳嗽の重症度と咳嗽関連QOLの有意な改善を認めた。しかし咳嗽の頻度(非主観的primary outcome)は改善を示さなかった。プレガバリンの一般的な副作用は、眩暈、疲労と認識機能の変化を含む。

AREAS OF UNCERTAINTY
不確定の領域
喘息、胃食道逆流と後鼻漏の“diagnostic triad“は慢性咳嗽の主な原因であると考えられてきた。そして、これらの疾患にターゲットを当てた治療に高い成功率が求められてきたが、いくつかの観察はこの概念に関する疑問を引き起こした。第1に、これらの一般的な疾患を示す患者の大多数は、過度の咳嗽を示さない。第2には、慎重なガイドラインに基づく検査と治療にもかかわらず、多くの慢性咳嗽患者は基礎病態に対する治療に反応を示さないか、咳嗽の同定可能な原因が見つからず咳嗽が持続する。これらの患者の主要な異常は、咳嗽をコントロールする神経経路の異常である。同定可能な原因(喘息。胃食道逆流。後鼻漏)は神経性咳嗽過敏症候群の意味においてのみトリガーとして働きうる。(図2)この仮説を支持する様に、カプサイシン(刺激性エアゾール)の吸入の研究では、この薬剤が慢性咳嗽患者において健常対照群の2倍の咳嗽反応を引き起こすことを示した。
ニューロン過敏症が慢性咳嗽の基礎をなすという概念は、これらの患者の病歴とも整合している。即ち彼らは咽喉刺激感や咳嗽をしたい衝動と咳嗽発作が、低レベルの環境刺激物質(例えば、香水やホコリ)や喉頭に対する物理的刺激(例えば、会話、歌、食べること)、そして体温と湿度の変化によって引き起こされると言う。患者の間で咳嗽の特定のトリガーが異なるにもかかわらず、大部分の患者は咳嗽をしたいという抑えられない衝動とそれに伴う気道刺激感覚(75%は喉で刺激を、15%は胸部で刺激を感じる)を報告する。 “咳嗽過敏性症候群”という用語はこの病像を述べるための最近の造語である。しかし、現在のところ臨床クライテリアまたは診断を区別できる検査に関するコンセンサスはない。
恐らく慢性咳嗽は機序的に単一の障害ではない。咳嗽過敏症の基礎をなしている神経学的機序は、末梢および中心神経系の両者において特異的神経レセプターをターゲットにした新薬の研究(例えば、P2X3neurokinin-1、と一過性受容器電位[TRPvanilloid 1TRPV1]。vanilloid 4TRPV4]、ankyrin 1TRPA1])(図2)を含む更なる研究が必要である。例えば、不応性慢性咳嗽患者に関する最近の無作為比較試験では、P2X3アンタゴニストによる治療はベースラインと比較してプラセボ群より咳嗽回数が75%減少していた。しかし、臨床診療におけるこの薬剤の潜在的役割はいまだ明らかでない。

GUIDELINES
ガイドライン
 ACCPは、慢性咳嗽の管理ガイドラインを発表してきた。それは現在修正、更新中でありヨーロッパ諸国のガイドラインと類似している。本論文の勧告は、概ねこれらのガイドラインと一致している。

CONCLUSIONS AND RECOMMENDATIONS
結論と勧告

慢性咳嗽患者は、呼吸機能と胸部画像が正常で。基礎をなす肺や肺外病変の存在を示唆するための特異的な症状や徴候がない;喘息と鼻炎の治療試験は、効果的でなかった。現在のガイドラインに従って、我々はPPIによる2ヵ月の胃酸抑制療法の試験を提案する。実際には、我々はときにそのような治療法の後、咳嗽の著しい改善を経験することがある。しかし、胃酸抑制の無作為試験では概ねこの集団において咳嗽の有意の改善は見られなかった。これといった反応がない場合、我々は治療を中止するだろう。平行して、更に我々は反応性気道の可能性を評価する検査(メサコリン誘発試験とFeNO測定を含む)を開始する。これらの測定結果が正常であり、胃酸抑制の試験がうまくいかないなら、胸部HRCTと鼻鏡検査の適応がある。すべての試験が陰性である場合、我々は慢性咳嗽の基礎となる悪い原因がない説明して患者を安心させ、咳嗽反射をコントロールしている神経の異常が最もその問題の根幹であることを説明するだろう。我々は、慢性咳嗽に対して現在公認されている治療はないが、限られた臨床試験データは徐放性低用量硫酸モルヒネ、ガバペンチンまたはプレガバリンまたは言語療法が治療の有益性を支持したと説明する。我々は、各オプションの潜在的利点と副作用について彼女と話し合だろう。我々は、不応性慢性咳嗽は消失するかまたは、時間とともに自然に軽減するだろうと説明して彼女を安心させるだろう。

2016年11月1日火曜日

第410回熊本チェストカンファレンス

熊本大学医学部

症例1
67歳,男性
主訴:咳嗽
現病歴:約6か月続く咳嗽.喀痰あり.近医にて抗菌薬処方受けるも改善なし.
既往歴:COPD,RAなど
内服薬:ケアラム(DMARD)など
喫煙歴:past smoker 20本x40年

胸部単純X線
右肺尖部に胸膜肥厚or浸潤影
右下肺野血管影の増強
右肺門リンパ節腫脹
右下肺野網状陰影
右下葉に2か所結節影あり
右Kerly's B lineあり?

胸部CT
右肺:小葉間隔壁肥厚,胸膜表面の粒状影,上葉から下葉にかけて気管支血管束の腫大

画像から鑑別診断
primary LC +PLC
metaLC+PLC
Lymphoproliferative disorder(Lymphomaも含む)
Sa症
塵肺など

診断
TBB
リンパ管に低分化の腫瘍細胞
TTF-1陽性,NapsinA陽性,p40陰性・・・
→原発性肺腺癌(T4N3M1b)+PLC

PETでは#7, #11sに取り込みあり.

PLCの進展様式
①血行性転移
②逆行性転移
③経横隔膜転移 などが推測されている.


症例2
79歳,男性
既往症77歳 脳塞栓症
現病歴:脳梗塞後遺症による右片麻痺あり.普段よりroom airにてSpO2 91%と低値(喫煙歴なし).38℃の発熱出現し,抗菌薬にて一時症状改善するも,酸素化の悪化(NC 3L/minにてSpO2 80%台)を認め入院となる.

身体所見:体温36.6℃,呼吸数16/min,脈拍 62/min・整,
BGA (O2 3L/min):pH 7.45, PaCO2 31, PaO2 50Torr, BE -1.6 mmol/L

胸部単純X線:右肺門部の陰影(肺動脈の拡大?).その末梢の血管影は狭小化?
造影胸部CT:early phaseにて染まる蛇行した血管影.

診断はAV fistula
家族歴なし
治療は経カテーテル塞栓術.AMPLATZER  Vascular Plug

脳塞栓の既往も右左シャントが関与か

refractory hypoxemiaかどうか?の質問あり.
→シャント率によるだろう.
(血液ガスの臨床 p121)


特別講演
IPFについて 増永先生より

2015年難病医療助成制度が変わった
軽症高額制度
ピルフェニドン 1日 6261円,ニンテダニブ 1日 13148円.


 従来I,IIは対象外であったが,IPFに関する医療費が33000円を超える月が年3か月以上続くことが証明できれば難病医療費助成制度の対象になる・・・etc.
http://ipf.jp/pro/pdf/grant.pdf

2016年10月25日火曜日

第10回熊本気道疾患カンファレンス

921
熊本大学山崎記念会館

鼻咽喉科
声門癒着 挿管性のものが多い
声門後部癒着例は治療困難な例がある.
挿管例の発症頻度→不明
挿管後数日から数か月たって発症.

好酸球性気道炎症&アレルゲン免疫療法 Up-To Date
埼玉医科大学 永田教授
Mepolizumab  2009 NEJ 
JACI 2016;137:75 重要論文
重症喘息は血中,喀痰中にIL-5+ILC2 cellの増加がみられる.→だからステロイドが効かない.

 Nature Med 2013の図
ILC2は自然免疫系に属す

IL5好酸球性Axisの臨床的重要性が証明された.
重症喘息でのIL-5の供給源としてILC2が有力!

Th1サイトカインも関与しているという説も有力になっている.
Thorax 2006;61:202-208
重症喘息ではIFN-γが増加(喘息に悪い影響を与えている)
またウイルス感染や重症喘息の気道では血清IP-10IFN-γの下流にある)が増加.IFN-γ,IP-10Eosを誘導する.
風邪をひくと喘息が悪化=IFN-γ系が動くため.
ステロイドはIFN-γ,IP-10は減らない.IP-10によるEos集積反応をformoterolが抑制するというin vitroのデータあり(埼玉大学の報告).
重症喘息ウイルス感染時の好酸球性炎症増幅にTh1系が活性化(IFN/IP-10

重症喘息で見られる特徴
ERJ 2003;22:470  ENFUMOSA

重症患者の誘発喀痰にてIL-8が上昇
IL-8+Neu→好酸球遊走亢進
重症喘息の一部で好中球+好酸球の混在炎症

IL-8の上流=Th17を抑制したらどうなる?Th17分化誘導を抑制するドパミンD1受容体拮抗薬はアドレナリンによる好中球性気道炎症を抑制する.J Immunology 2011;186:5975
IL-17受容体抗体 brodalumab   AJRCCM 2013;188:1294-1302     Busse
Th17/IL-17に対する抑制戦略が期待される.

エンドトキシン
アレルギー性軽症喘息はアレルゲン+LPSにてBALFECPが上昇.アレルゲンのみではECPは増えない. LPSの作用は直接的ではない.VitroNeu+LPS→好酸球の遊走亢進

重症喘息の好中球+好酸球の混在型炎症に環境中のエンドトキシンが関与.

 ぺリオスチン
ミシガン大学 JACI 2014;134:1433
ぺリオスチンはEosの接着,活性化を極めて強力に誘導する.
Noguchi JACI 2016 accept
ぺリオスチンは好中球へのエフェクター作用があるのでは?

アレルゲン免疫療法について
作用機序
①遮断抗体としてのIgG4クラスの増加
Th1-Th2インバランスの改善
③制御性T細胞誘導による
IL-10などの制御性サイトカインの産生

中等症の喘息   
症状を軽減する
吸入ステロイドの消費を減らす JACI  2006

舌下免疫療法は?
ダニアレルギー喘息    急性増悪を抑制
ミティキュアダニ抗原によるアレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法)を使う
ダニ単独感作鼻炎±喘息  3-5年すると
アレルゲン新既感作を抑制  SLITの効果

IgG4はマーカーになる.免疫療法でIgEの値は変わらない(だから減感作といわない)
SCIT(注射),SLIT(舌下)
喘息症状スコアと治療スコアでみるとSCITの方が効く.IgG4も有意にSCITで上昇.
ミティキュア(は喘息のエビデンスがある.
喘息+鼻炎の患者に対して鼻炎を治療すると喘息も良くなるという欧米のデータがある.
治療は3年しましょうと説明.通常脱落が多いとされるが埼玉医大では9割程度は続けている.
免疫療法は新規アレルゲン感作阻止,喘息発症抑制,長期予後改善作用あり.

フロアからの質問
アレルゲン免疫療法の治療マーカーは?
IgG4TGF-βが良いのでは(永田先生私見)

どのような人を治療対象とするか?
調子の良い時に閉塞性換気障害がない人
ICS/LABA以下の治療で症状がコントロールできている人.
ペット飼育あり,喫煙あり,大酒家→除外した方が良いのでは.

2016年10月6日木曜日

CO2ナルコーシスを考える III


Oxygen therapy in acute exacerbations of chronic obstructive pulmonary disease

International Journal of COPD 2014:9;1241-1252

 

Respiratory failure during acute exacerbations of COPD

症状の安定したCOPD患者は認容できるパラメータを維持することができるが,増悪にて入院した患者においては,非代償性,呼吸不全はより起きやすい.十分に特徴付けられたスペインの2487例のコホートは,COPD増悪にて救急部を受診した患者を対象とし,50%が来院時に低酸素血症(SaO2<90%)を示し,57%PaCO2>45mmHgであった.UKにおける232施設9716名の検討では,20%が来院時呼吸性アシドーシスをきたしていた.しかし,酸素治療は常に適切に行われていたわけではなく,病院到着時に24%の患者が高酸素血症をきたしていたとの報告がある.これについては後程述べる.外来治療を行った軽症増悪患者のデータは乏しい,しかしUKにおいて外来にて治療した増悪患者の観察研究では,平均酸素飽和度は1%しか低下していなかった.これは,低酸素血症を伴う増悪はより重篤で通常入院で治療されているという事実を反映している.

 

Pathophysiology of respiratory failure at COPD exacerbation

COPDにおけるガス交換は複雑であり,多くのプロセスによって影響を受ける.しかし主要なアウトカムは,肺における正常V/Qの障害である.その結果左房に戻ってくる血液の酸素化は乏しい.この結果全身性の低酸素血症をきたす.一方肺胞低換気もまた炭酸ガスの除去が十分行えず,結果として高炭酸ガス血症をきたす.

 

ガス交換のための最適なV/Q0.8である.しかし健常人であっても重力の作用により,肺尖に近いとその比は高く,肺底部に近いと比は低くなる.COPDにおいては異なった病的プロセスがV/Q比に対して反作用をもたらす.例えば肺の気腫性領域は,肺胞毛細血管ネットワークが破壊されても適切な換気を受け続ける.即ち生理学的死腔は高いV/Q比から有意なbenefitを受けることが阻害される.

言い換えると細気管支炎とその閉塞は適切な肺胞換気を妨げ,V/Q比を低くし,潜在的に静脈―静脈シャントを引き起こす.COPDはヘテロな肺疾患であり,異なった病的プロセスが異なった肺の領域でそれぞれ有意に起こることによって酸素化の異なった血液の混合されたものが全身循環に送られる.

 

COPD増悪において,複雑な一連のeventがおこる.即ち悪化したV/Qミスマッチや悪化した酸素化である.増悪の引きがね(通常はウイルスや細菌)に対する結果として,気道炎症が急速に進行する.その結果粘液分泌の増加,粘膜浮腫,気道攣縮が引き起こされる.それによって呼気気流制限の急速な悪化が引き起こされ,呼吸速迫とともに動的過膨張のサイクルを招き異常な呼吸をきたす.これらは下記の他の因子とともに,肺胞換気を著明に低下させる.肺内血管の変化も状況に関与する.肺血管抵抗と肺動脈圧は増悪時に急激に上昇し,このことは心機能障害と共に肺胞毛細血管床への血流を減少させる.このことにもかかわらず,換気の乏しい肺ユニットに不釣り合いな増加した血液が潅流する.このことは全身の低酸素血症をさらに増悪させる.これらのプロセスはFig 1にまとめる.

Fig 1  COPD増悪時の呼吸不全の増悪の病的プロセス

高炭酸ガス血症もまた重症COPDにおける肺胞低換気の重要な結果である.ほとんどの患者は,安定状態にあると,十分な肺胞換気を維持するために,呼吸ドライブを増加させ分時換気量を増加させることができる.しかし増悪期では,これらのメカニズムは上に描いた病的プロセスによって簡単に打ち負かされる.非代償性の高炭酸ガス血症の存在は呼吸性アシデミアを生じさせ,アシデミアは,腎臓により産生されたbicarbonateイオンの緩衝作用により数時間から数日かけて正常化する.このことはアシデミアの程度に関連した不良な予後と関連する,増悪から回復した後にもし高炭酸ガス血症が持続するなら,正常に戻るよりも予後は悪いだろう.

 

COPD自体に加えて,他の合併症が増悪期に低酸素血症に影響する.COPD患者の睡眠障害はよく起こり,日中の低酸素がなくても夜間の低酸素を経験することは多い.COPD患者におけるOSA(いわゆるoverlap症候群)の罹患率は,一般人口の罹患率とほぼ等しく1%である.しかし予後はCOPD単独よりも不良である.Overlap症候群の患者は,それぞれ単独の疾患を有する群と比較して,睡眠時の酸素飽和度がより大きく低下し,全死亡率が多く,COPDの増悪が多い.病因には多因子が関与しているようである.臥位になると機能的残気量が減少し,これは気道抵抗の増加,呼吸筋のトーンの低下を伴い,dependent lungにおける細気道の閉塞をきたす.これらの変化は生理学的にはわずかな程度であるが,OSAにおいてはより著明である. COPDの合併した患者において,加えられた障害はV/Qミスマッチと低酸素血症を悪化させるには十分である.一方,肺胞低換気はCO2の産生を抑制し高炭酸ガス血症を引き起こす.NIVによる適切な治療が死亡率を減少させ,増悪を抑制するエビデンスがある一方で,Overlap症候群が増悪に与える影響に関してはデータが限られている.これらの患者は増悪時により高炭酸ガス血症になりやすい.したがって酸素治療は注意して調整しながら行うことがまた必要である.それに関しては以下に記載する.

 

Oxygen therapy at acute exacerbation of COPD

中等度の濃度にある酸素投与は,高炭酸ガス血症を誘発するリスクを伴うが,COPD増悪時の低酸素に打ち勝つには一般に適切である.しかし,高流量の酸素投与が長らく急性増悪期の標準的な治療であり,比較的最近まで,特に入院前のケアにおいてCOPD患者に対しても行われていた.しかしこれらの患者に対する無分別な酸素投与を行うリスクは,今や十分に認識されている.我々はここで,COPD増悪期の酸素の適正使用に対する理論と,使用法,更に酸素投与と換気サポートについて述べる.

Oxygen-induced hypercapnia and hyperoxia at COPD exacerbation

酸素投与の重要な結果は,感受性のある患者において高炭酸ガス血症の増悪が起こることである.そしてこのことは長らく認識されてきた.1949年慢性肺性心のある患者に,高濃度の酸素投与を行い神経学的変化,即ち致死的昏睡と頭蓋内圧の一過性亢進をきたした最初の症例報告がなされた.高炭酸ガス血症は,低酸素による呼吸刺激が抑制され,VEが減少した結果と考えられた.この広く支持された考え方に対して,高炭酸ガス血症を伴う重症COPD患者に対して100%の酸素吸入を20分行う研究が行われた.VEは一過性に低下したが,15分後room air下でVEは再びコントロール値とほぼ同等にまで回復した.しかしそれにもかかわらず,PaCO2は有意に上昇した.この上昇は, VEの変化と相関せず,肺内のV/Qミスマッチの増加が関与していた.このミスマッチの増加は,恐らく換気の悪い肺ユニットにて強く誘発された低酸素性血管収縮の改善によるものである.このことは最近,COPD急性増悪期にある22例の患者において,multiple inert-gas techniqueによって検討された.酸素投与により高炭酸ガス血症をきたした12例の患者は,高炭酸ガス血症をきたさなかった患者と肺内V/Q欠損が同等であったが,肺胞死腔は,高炭酸ガス血症をきたした患者で上昇していた.重要なことは,高炭酸ガス血症患者においてVEもまた約20%減少したということである.後期に起こり得ると考えられる呼吸筋疲労もまた一因と考えられる.さらに換気の低下は浅い呼吸の反映かもしれない..

 

 酸素誘発性高炭酸ガス血症の考えられるメカニズムとして,PaO2が上昇した時のCO2-ヘモグロビン解離曲線の変化がある.酸素化ヘモグロビンは酸素の解離したヘモグロビンに比べてCO2結合能が低い.従ってヘモグロビンに対する酸素の比率の増加は,結果としてCO2-ヘモグロビン解離曲線の右方偏位を生じる.これはHaldane effectとして知られており,PaCO2が増加する.この効果は通常VEの増加によって打ち消されるが,重症COPD患者ではしばしばこのVE増加を行うことができず,高炭酸ガス血症が増悪する.このことは,酸素投与による全PaCO2増加の25%に及ぶと説明されている.

 

 従ってCOPD増悪時の酸素誘発性高炭酸ガス血症は,複雑な因子の組み合わせによるものであり,完全に理解されていない.しかし,それに伴うリスクは現在十分に認識されている.多くの研究は,入院前のケア時に行われる酸素治療に焦点を当ててきた.UKにおいて約1000名の患者の後ろ向きcase seriesは,20%が病院到着時に呼吸性アシドーシスをきたしており,このことは,その後の気管内挿管のリスクと相関していた.PHPaO2と負の相関関係にあり高酸素血症患者(PaO2>13.3kPa)の半数以上はアシドーシスを呈していた.入院前の状態における過度の高酸素血症の役割を反映していた.呼吸性アシドーシスが存在するところでは,アシドーシスの程度は,死亡率と相関している.同様に入院前酸素治療を行ったCOPD増悪211例に関する後ろ向き研究では,28%以上の酸素濃度で酸素治療を行った患者は,コントロールされた酸素治療を行った群と比較して,有意にアシドーシスをおこしていた.急性増悪にて救急搬送された254例のCOPD増悪患者において,来院時に高酸素血症を示していた患者は,正常酸素血症にあるものと比べて,重篤な合併症(II型呼吸不全を含む)のリスクに関するodds9.17 (95%信頼区間 4.08-20.6)であり,低酸素血症を示していた患者では合併症のリスクに関するodds2.16 (95%信頼区間 1.11-4.20)にすぎなかった.

さらに間接的なエビデンスとして,病院における大規模な動脈血液ガスサンプルの研究がある.その研究では,高炭酸ガス血症サンプルの72%において, SpO2 は推奨される92%よりも高く,酸素コントロールが不良であることが示唆された.低酸素血症は高炭酸ガス血症に比べて,より急激に危険となり,高酸素血症もまた有意に過度のリスクをもたらすかもしれない.

 
高濃度酸素で治療している高炭酸ガス血症患者において更に考えておかなければならないことは,酸素投与を中止することによる反跳性低酸素血症現象である.これは,肺胞ガス式にて示される如く,酸素と二酸化炭素は相対的な分圧に従って肺胞内の限られたスペースにおいて,お互いに入れ替わることによって生じる.非常に高い肺胞PaO2(高濃度の酸素吸入下で認められる)の存在下では,PaCO2が室内気酸素吸入下よりも高いレベルに上昇しても,全身の酸素化は維持される.人体は酸素よりも二酸化炭素をより多く貯留し,もし急に酸素投与を中止すると,急激に肺胞のPaO2が低下し,残った二酸化炭素が(今や低圧となった)酸素と置換する.その結果動脈血PaO2は急激に低下し,たとえPaCO2が安定,または改善しても急性動脈血低酸素血症によって死亡するかもしれない.この理由によって酸素治療は必ず徐々に段階的に行うべきである.

 

 説得力のある観察研究にもかかわらず,高濃度酸素吸入よりも段階的酸素吸入治療が有益とする質の高いエビデンスは最近になって初めて報告された.2010年,AustinらはCOPD増悪疑い患者に対する入院前のケアにおいて,段階的酸素投与に関する,最初の大規模な対照研究を報告した.クラスター無作為化試験では、ランダム化の単位として個々のparamedicsに関して、段階的酸素療法群(NCを介して88-92%の間の酸素飽和度を維持することを目標;32 paramedics)と,face maskを介して高流量酸素を行う標準的ケア群(30 paramedics)に分けて酸素投与を行った。 214人の患者においてintent-to-treat解析を行い,97例が段階的酸素投与群,117例が高流量酸素投与群であった。段階的酸素投与プロトコール群はアドヒアランスが十分でなかったにもかかわらず,呼吸性アシドーシスと高炭酸ガス血症が減少し,COPD確定例における死亡は78%減少した.

 

高酸素血症を回避しながら、低酸素症を緩和するための段階的酸素療法は、高炭酸ガス呼吸性アシドーシスのリスクが高いCOPD患者に酸素療法を行う,正しいアプローチであることは今や強力なevidenceがある。動脈血液ガス分析が判明するまで、これらの患者のすべてに対して段階的酸素療法を行うことは賢明なことである.

 

 

Administration of oxygen therapy

酸素化の適切なレベルを達成するための鍵は、制御された酸素療法,即ち患者の酸素レベルを監視し,許容できる酸素飽和度に到達するまで段階的酸素療法を行うことである.
このアプローチを図2に要約する。
段階的酸素調整は,酸素流量を変化させたり,患者が既知の吸入酸素(FiO2)で呼吸できるように酸素と空気を特定の割合で混合できる特定のdeviceを使用して達成することができる.
酸素投与の主要な方法は、以下に記載する.
Nasal cannulaは,低から中等度の濃度の酸素を吸入することのできるもっとも単純なmodeである.そして標準的酸素マスクよりもかなりの利点がある.

(中略)

Short cannulasは酸素を直接nasopharynxへ送達し,死腔を減少させ,吸気抵抗を低下させる.そして1-6L/minの酸素流量を送達できる.この時のFiO2はおよそ24-50%である.患者は酸素吸入中に食事をしたり,会話をすることができる.Nasal cannulasface maskに比べて落ちたり,顔の動きで外れたりしにくい.驚くべきことではないが,患者はface maskよりnasal cannulasを好む.従って後者は酸素治療のコンプライアンスを改善する.更にnasal cannulasを介して行われる低流量の酸素治療は,・・・・・(中略).

急変したCOPD患者に対してnasal cannulaは推奨されない.正確なFiO2のコントロールが重要だからである.しかしいったん状態が安定したら,nasal cannulaにて目標とする酸素飽和度になるように酸素流量を調整することは,最も簡単で受け入れやすいcontrolled oxygen therapyである.

Face maskは通常40-60%吸入気酸素濃度を送達できる.しかしFiO2は非常に変動し,低流量の場合はCO2の再吸入リスクがある.分時換気量が低下すると吸入気酸素濃度が上昇し,更なる増悪を招く.この問題は,非再吸入face mask(リザーバーバッグを付けたもの)を使用することによって一部は避けられるが,FiO260-90%でありしかも変動し患者の分時換気量に依存する.COPDの増悪であっても,通常安全なレベルの酸素化は, FiO260%で達成される.従ってこれらのマスクは,コントロールされた酸素治療が必要なII型呼吸不全のリスクにある患者においては推奨されない.

Venturi systemの話.(中略)

COPD増悪時の高炭酸ガス血症は,たとえ安定期に高炭酸ガス血症を認めたとしても,すべての患者に起こるわけではない. 繰り返し高炭酸ガス血症をきたす患者もいれば,低酸素血症のみをきたす患者もいる.動脈血液ガス分析を行わずに高炭酸ガス血症のある患者を同定することはできない.酸素に極めてsensitiveな患者,即ち少量の酸素でも高炭酸ガス血症が著明となる患者がいる.これらの患者は目標とする酸素飽和度をより低い範囲にすることが必要である.しかし,もしPaCO2が正常なら,酸素治療は通常の酸素飽和度の範囲である94-98%を目標としてよい.しかしCOPD患者は安定期のSaO2がより低いので,患者の状態が悪くなければこの目標値を求めることは通常不要である.

酸素治療を開始した後は,患者の十分な観察と,繰り返しの評価を行うことが重要である.COPD急性増悪患者はきわめて状態不良で,特に初期においては,極めて急速に状態が変化しやすいので,状態を見ていく必要がある.通常の評価としては,呼吸数,酸素飽和度,生理学的測定,意識レベル

を見ていくべきである.意識の低下はCO2ナルコーシスの始まりである可能性がある.患者の状態が良くなるにつれて,酸素は目標としたSaO2の範囲の上限を超えないように減らすべきである.酸素治療は薬物治療として考え,他の薬剤と同じように治療チャートに基づいて処方すべきである.酸素の処方は,投与device,酸素流量,目標とする酸素飽和度の範囲の情報とともに,これらのパラメータの範囲を超えた時に何をすべきか指示をすべきである.

COPD急性増悪期の酸素治療は,supportiveな手段にすぎず,COPD増悪そのものの治療とともに行わなければならない.ほとんどの症例で気管支拡張薬の吸入,抗菌薬,ステロイド全身投与が適切な治療である.