第8回熊本呼吸器感染症セミナー
熊本大学にて
セッションI
胸部大動脈瘤を併発したと考えられた敗血症の一例
セッションII
抗菌薬概説シリーズ その6 抗MRSA薬
セッションIII
抗菌薬適正使用・医療関連感染対策で重要な耐性菌と薬剤耐性機構
感染性大動脈瘤の症例報告があったので
2010年度合同研究班報告 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2011年改訂版)から抜粋.
勝手に下線や文字の色付けしました.
感染性大動脈瘤
概念
細菌性動脈瘤は1885年にOslerにより感染性心内膜炎からの細菌性塞栓によって生じた動脈瘤として初めて報告された.初期には感染巣から離れた動脈に発生する動脈瘤を意味していたが,現在では概念を広げ,感染に起因したすべての動脈瘤および既存の動脈瘤に感染が加わったものも含めて感染性動脈瘤と総称している.
感染性大動脈瘤は比較的まれな疾患であり,全大動脈瘤に占める割合は0.5~ 1.3%と報告されている.
以前は感染性心内膜炎からの菌血症や感染性塞栓が主要な感染源であったが,最近では減少しつつあり,かわって動脈硬化・医原性の動脈損傷(カテーテルや手術)等高齢化に伴う因子が増加している.糖尿病や悪性腫瘍治療・膠原病治療による慢性的免疫機能低下も重要な危険因子である.
胸部に生じるものが32%で,腹部分枝にかかる腹部が26%,腎動脈以下の腹部大動脈が42%と腎動脈下大動脈に多い.
起因菌に関してはグラム陽性球菌(主にブドウ球菌)あるいはグラム陰性桿菌(主にサルモネラ)が多いと報告されている.Mayo Clinicからの報告685)では50%がグラム陽性球菌(ブドウ球菌が30%,連鎖球菌が20%), 35%がグラム陰性桿菌(サルモネラ20%,大腸菌15%)であったが,台湾大学からはサルモネラが76%を占め,グラム陽性球菌は10%程度であったという報告があり,起因菌に関しては地域性があるらしい.また珍しいものとして好酸菌や真菌によるものもある.
報告されている死亡率は23.5~ 37%と非感染性大動脈瘤に比して極めて高く687),その主要な原因は大動脈瘤破裂や術後であれば吻合部等の破裂,あるいは敗血症による多臓器不全である.
診断
発熱や疼痛等の自覚症状や血液検査上の炎症所見が発見の契機となることが多い.腹部であれば拍動性腫瘤を触知することがある.画像診断としては単純レントゲンや超音波検査,特にCTが有用である.感染兆候を呈する患者において大動脈瘤が発見された場合は感染性大動脈瘤を常に考慮しなければならない.画像診断上の感染性動脈瘤の特徴として限局した嚢状瘤を形成することが多いといわれているが,既存の紡錘状瘤に感染を起こしていることもあり,形態のみから感染を否定することはできない.動脈瘤周囲の液体貯留は炎症による浮腫,あるいは膿瘍形成を示すものであり,感染を強く疑わせる所見である.また経時的に観察していて急速に拡大する場合はやはり感染性大動脈瘤の可能性が高い.術前の血液培養は適切な抗生物質選択のために必須の検査であり,感染性心内膜炎の診断に準じて複数回採取すべきである.
治療
①抗生物質治療
感染性大動脈瘤が診断され次第,培養検査の結果に応じて強力な抗生物質投与を開始する.
抗生物質に対する反応が良好で感染徴候が速やかに軽快する場合は十分な期間抗生物質投与を行い,可能であれば完全に炎症反応が陰性化してからの手術が望ましい.
一方で常に破裂の危険性があることを念頭に置き,発見時の動脈瘤の形態や経時的な拡大傾向に注意ながら手術時期を逸しないようにする.破裂例は当然であるが,急速な拡大が見られる場合も,たとえ感染の制御が不十分であっても早急な手術を検討する.また,適切な抗生物質投与にもかかわらず感染の制御が不良な場合も早期の手術が必要である.
動脈瘤そのものが小さくて手術適応がなく,抗生物質治療によって感染が消退した場合の手術の必要性についての一定した見解はない.Hsuらは3cm以下の瘤径で抗生物質投与により感染が制御できた5例のうち追跡できた3例の長期生存を報告している.