2014年4月18日金曜日

第385回チェストカンファレンス

2014年4月17日 熊本大学医学部附属病院

教育症例
87歳,大量嘔吐後の発熱.両側肺野背側主体に広範な浸潤影
診断は誤嚥性肺炎(化学性肺炎)+イレウス+非閉塞性虚血性腸炎+門脈ガス

CTにて液面形成を伴う小腸拡張,腸管壁肥厚と壁内ガス.門脈内ガス(hepatic portal venous gas)を認めた.

門脈ガスと胆道気腫の違い
門脈:肝門部から末梢に向かう流れ.従って肝表面から2cm以内の末梢まで広がる.
胆道:胆汁は肝門部から末梢に向かう流れ.

Pneumobilia(胆道気腫)
胆道内にエアを認める状態のこと。病的にも起こりうるが、臨床的頻度としては胆道系に何らかの手術(処置)がなされてたための生理的状態として認めることの方が多い
Hepatic portal venous gas(門脈ガス)
一見、Pneumobilia と似た画像所見を呈するが全く別で門脈内にガスを含む状態のこと。原因不明のまま無症状のケースも報告されているが、一般的に病的と考えるべき状態である。
 門脈にガスがあるためには、門脈系にガス産生性の化膿性病変があるか、あるいは腸壊死に腸管ガスが門脈内に流入するかのいずれかとなる。Etiology としては、
・Mesenteric ischemia(すでに腸壊死が完成している場合)
・Appendicitis
・Colonic diverticulitis
などがある。

一部http://generalsurgery.secret.jp/ACUTE_ABDOMEN/Biliary_disease/entori/2012/1/16_sono_tano_dan_dao_ji_huan_(Other_biliary_disease_with_abdominal_pain.html
より引用させていただいた.

症例1
80歳,男性
左上葉Sq(stage IA)に対し左上葉切除術の既往あり.経過観察中の4年後に左S6に結節影出現.重喫煙歴がある.腎がん,前立腺がん胃がんの既往.肺野にはCOPDとfibrosis(IPF)あり.胸膜下に結節影.1年で結節影が明らかとなる.
増大が急速.腫瘍マーカーはCEA, CYFRA経度上昇.NSE, pro-GRPの上昇なし.PET/CTにてSUVmax 2.2⇒3.5の集積.#4Lにも集積あり.炎症か腫瘍か?
鑑別診断
感染症:真菌感染(アスペルギルス,クリプトコッカス),抗酸菌,悪性腫瘍:原発性,転移性肺癌.その他GPA,アミロイドーシスなど.
診断はSCLC. CTガイド下生検にて診断.生検後陰影自然退縮.

腫瘍の自然退縮Spontaneous regressionについて.
Everson とCole により,1966 年に提唱されたものが最も広く使用されている.
・無治療か悪性疾患に対して有効でないと考えられる治療によって,悪性腫瘍が一部ないしは完全に消失すること.
・最低1ヶ月はそれを持続し,退縮が明らかなもの.
Everson TC, Cole WH. Spontaneous regression of cancer. Philadelphia: WB Saunders Company. 1966;3-10.
様々な組織型で見られる.
<悪性腫瘍の自然退縮の機序>
腫瘍そのものの分子生物学的特性,腫瘍間質の状態,生体の免疫反応,臓器の特異性など複雑な要素が関与していると考えられる.また自然退縮が,原発巣の切除や生検などの外科的侵襲が加えられた後に生じたり,感染症の合併後に認められたとする報告も散見される.
(自然退縮がみられた肺多形癌の1 例.日胸疾患会誌 2012; 1: 498-501.)
生検後に自然退縮例あり.
この機序として,①feeding arteryのemboli,②腫瘍の破壊など.

症例2
16歳,男性.主訴は発熱38.5℃と胸部痛.
WBC 13900,CRP 6.04.
右S3,中葉に巨大はtumor.右B3の気管支は腫瘍内で拡張(気管支の走行を呈しlow density area)?縦隔リンパ節腫大(#2R-#4R,#7)あり.前縦隔に内部のdensity不均一なtumor.内部に骨のdensityは認めない.前縦隔の腫瘍は右上葉のtumorと接している.

鑑別診断は
腫瘍性
germ cell tumor, ML, (異所性甲状腺腫)
pneumoblastoma
炎症性
actinomycosis, TB
⇒縦隔と肺内の病変を一元的に考えると,どのような機序を考えるか?

気管支鏡所見
細径気管支鏡にて,白い糸状の物質,粘度の高い壊死状?物質.

抗菌薬(TAZ/PIPC)投与にて右肺の陰影内に拡張した気管支が見えるようになった.全体の腫瘍性?陰影も縮小.

診断
mature teratomaの肺内穿破
BFにて認めた白い糸状物質は毛髪.喀毛症(trichoptysis).
卵巣腫瘍では黒髪,縦隔腫瘍では白髪なのだそうだ.

白色毛髪様物質とチーズ様固形物の喀出を主訴に来院した症例の報告.
日呼吸会誌 2003; 41: 191-195.

奇形腫
予後は良好で,悪性化は12-13%.
CT上嚢胞性腫瘤を呈することが多い.
嚢胞性腫瘤を呈するもので,石灰化や脂肪を全く認めない例は15% .⇒AJR 1997 ; 169 : 985―990.
穿破の頻度は30%.肺内,気管支に多い.胸腔,心嚢,大血管に起こることもある.
穿破の原因としては,腫瘍の増大による壁の虚血,腫瘍内で分泌される消化酵素による融解,感染によるものが考えられている.
以上は日呼吸会誌 2005: 43(6):365-369.より引用.