2021年3月23日火曜日

第434回熊本チェストカンファレンス

2020年11月26日

症例1

労作時呼吸困難を主訴とした63歳男性。

安静時SpO2 88%、労作時70%台。

労作時はRM 10L/minでもSpO2 80%

呼吸音異常なし。

D-dimerの上昇、ALPの上昇、LDHの上昇。


CT上は気管支血管側に沿ったすりガラス影、fissureの不整?小葉間隔壁の肥厚は少しあるようにも見えるが・・


refractory hypoxemiaがあり、D-dimerの上昇などから考えると血管系の異常だろう。

悪性腫瘍の有無がどうなのか

PTTMはありうる。PVODは? 


心エコー上右室収縮気圧は64mmHgと上昇。


診断はPTTM

現疾患は前立腺がん。PSA↑↑

肺動脈吸引細胞診でも悪性細胞を認めた。


タダラフィル、マシテンタン+抗前立腺腫瘍薬併用で救命。肺動脈収縮圧も低下(32mmHg)。


きわめて予後不良。平均生存期間は3-4週


discussion

血管拡張薬 適応はないがどう使う?


【補足】

1991年 von Herbay  Cancer

「悪性腫瘍において、肺の亜区域枝よりも末梢の細動脈への腫瘍塞栓に引き続き、内膜の線維・細胞性(fibrocelluar)肥厚により特徴づけられる病態であり、腫瘍塞栓部での凝血亢進と内膜肥厚により、肺動脈内腔の狭小化、あるいは閉塞をきたし、肺高血圧をもたらす。」

<PTTMの病理学的な特徴>

①細動脈の線維細胞性内膜肥厚     →PTTMの最も特徴的な所見

②腫瘍塞栓

③血栓の器質化、再疎通像

〇肉眼でも認識しうる太い肺動脈に認められる腫瘍塞栓→

〇血管外の浸潤巣の一部にみられる腫瘍塞栓     →これらはPTTMから除外される。


*PTTMにおける内膜の線維細胞性肥厚について

BMC Cancer 2014, 14:14

血管内の腫瘍塊のみでは肺高血圧症を惹起できない。血管内皮障害+腫瘍の内膜への付着により肺高血圧症がおこるとされる。


<PTTMの機序>

①細動脈レベルの腫瘍塞栓

②腫瘍細胞の内膜付着、内皮障害

③腫瘍細胞が局所でtissue factorなどの因子を放出

㋐凝固系の活性化⇒血栓形成

㋑炎症性メディエーターやVEGFを含む成長因子⇒血管内膜の線維細胞性肥厚→血管内膜の線維化

㋐㋑により血管内腔の狭小化・閉塞 →  肺高血圧症  DIC


<PTTMの進展経路>

1.大静脈系へ腫瘍が直接浸潤→右心系→肺動脈

2.腫瘍の所属リンパ管浸潤→胸管→上大静脈→右心系→肺動脈


フロアから、「末梢の採血で腫瘍細胞が認められるのか」という質問があったが、上記の進展経路を考えると末梢血での診断は難しいだろう。肺動脈吸引細胞診が重要。


症例2

86歳男性

1週間前からの倦怠感、食思不振で受診。検査前のvital checkでSpO2低下を認めた。

発熱あり。WBC 8870/μl、Neu 81.2%、CRP 19.9 mg/dl


CT画像は上葉から下葉にかけてすりガラス影、traction bronchiectasisもある。


この時期ならやはりCOVID-19を疑う。でなければIPか他のウイルス性肺炎など。


SARS-CoV2 PCR陽性。診断はCOVID-19。