2012年5月24日木曜日

COPDガイドライン - ACP clinical practice guideline


Diagnosis and Management of Stable Chronic Obstructive Pulmonary Disease: A Clinical Practice Guideline Update From the American College of Physicians, American College of Chest Physicians, American Thoracic Society, and European Respiratory Society

Ann Intern Med. 2011;155:179-191.
ACP,ACCP, ATS, ERSによるstatementである.2007年ACP clinical practice guidelimeの改定版.GOLDのガイドラインと呼吸機能による分類が異なる.

7つの勧告:

 1. 呼吸器症状のあるCOPD患者において,気流閉塞の診断にスパイロメトリを使用すべきである(Grade: strong recommendation, moderate-quality evidence).呼吸器症状のない患者に気流閉塞のスクリーニング目的でスパイロメトリを行うべきではない(Grade: strong recommendation, moderate-quality evidence)

 2. 呼吸器症状があり%FEV1 60%から80%の間にある安定期のCOPD患者において、吸入気管支拡張薬による治療をおこなってもよい(Grade: weak recommendation, low-quality evidence)

 3. %FEV160%未満の呼吸器症状を有する安定期COPD患者において、吸入気管支拡張薬の使用を推奨する(Grade: strong recommendation, moderate-quality evidence)

 4. % FEV160%未満の症状を有するCOPD患者において、長時間作用性吸入抗コリン作用薬またはβ作用薬いずれかの単独療法を推奨する(Grade: strong recommendation, moderate-quality evidence)。患者の好み、コストと副作用プロフィールに基づいて選択すべきである。

 5. % FEV160%未満の症状を有する安定期のCOPD患者では、コンビネーション吸入治療を行ってもよい(長時間作用性抗コリン作用薬、長時間作用性ベータ作用薬またはコルチコステロイド)(Grade: weak recommendation, moderate-quality evidence)

 6. % FEV150%未満の症状を有するCOPD患者において、呼吸リハビリテーションを処方すべきである(Grade: strong recommendation, moderate-quality evidence) % FEV150%未満を超える患者であっても,症状を有するかまたは運動制限のある患者に対して、呼吸リハビリテーションを考慮してもよい(Grade: weak recommendation, moderate-quality evidence)

 7. 重篤な安静時の低酸素血症(PaO255mmHg以下またはSpO288%以下)のあるCOPD患者において、臨床医は持続性酸素吸入療法を処方しなければならない(Grade: strong recommendation, moderate-quality evidence)


●軽度から中等度の気流閉塞(FEV1% <70%,かつ%FEV1 50%)を有する,または気流閉塞を有さない無症状のat-risk asymptomatic individualsに対して治療を行うと,症状を伴う気流閉塞を予防できるか?

→ 治療効果を検討したRCTはない.すなわち,スパイロメトリにおける気流閉塞の有無にかかわらず,無症状の患者に対して治療を行うことは勧めない(2007年のガイドラインを再確認した結果となった.).

<COPD MANAGEMENT STRATEGIES>

COPD治療の目的は,長期間の肺機能低下を抑制すること,急性増悪を予防し治療すること,入院と死亡を減らすこと,可動を制限する息切れを和らげること,運動耐容能を改善し,健康関連QOLを改善することである.

Effect of Inhaled Therapies on Long-Term Decline in Lung Function
LAMA, LABA and/or ICSに関して,経年的FEV1低下を抑制したというevidenceはない.

経年的EFV1低下:
TORCH試験 LABA+ICS 39 mL/y, placebo 55 mL/y 有意差なし
UPLIFT試験  LAMA (Tio)+usual care 40 mL/y, placebo+usual care 42 mL/y 有意差なし
INSPIRE試験 LABA+ICS vs. LAMA alone  2年間で有意差なし
The prevention of chronic obstructive pulmonarydisease exacerbations by salmeterol/fluticasone propionate or tiotropium bromide. Am J Respir Crit Care Med. 2008;177:19-26.

●喫煙中止の効果 喫煙中止群 13 mL/y, 喫煙継続 60 mL/y
Effects of smoking intervention and the use of an inhaled anticholinergic bronchodilator on the rate of decline of FEV1. The Lung Health Study. JAMA. 1994;272:1497-505.

Comparison of the Benefits of Inhaled Therapies According to Baselene FEV1

吸入療法(抗コリン剤,LABA, ICS)にてもっとも恩恵を受ける患者は,呼吸器症状があり,%FEV160%以下の気流閉塞を有する患者である.これは以前のガイドラインを再確認した結果となった.研究対象となった患者には%FEV160%を超えるものもあったが, ほとんどのCOPD治療研究では,患者の%FEV1は平均60%以下であった.

Effect of Monotherapy in COPD

Exacerbation Hospitalizations, Mortality LABA

SFCはプラセボと比較してCOPDの年間急性増悪率を有意に低下.

Tio , LABA, ICSはプラセボと比較して,少なくとも1回の急性増悪をきたす相対危険度を有意に低下させた.

LABAは急性増悪を減らし,その作用はipratropium, ICS, Tioと同等である.

Tioはプラセボと比較して,COPD急性増悪による入院を有意に減少させた.しかしipratropiumと有意差はなかった.

The Lung Health Study (trial 1 and 2)において,ipratropium vs. placebo, ICS vs. placeboの比較では,入院100人年に有意差はなかった.

Effects of smoking intervention and the use of an inhaled anticholinergic bronchodilator on the rate of decline of FEV1. The Lung Health Study. JAMA. 1994;272:1497-505.

Lung Health Study Research Group. Effect of inhaled triamcinolone on the decline in pulmonary function in chronic obstructive pulmonary disease. N Engl J Med. 2000;343:1902-9.

TORCH studyではプラセボと比較してSAL, Fluticasone, SFCにおいて肺疾患死に有意差はなかった.しかし年間入院率は,プラセボと比較してSAL群において18%の減少を認めた.

Salpeterらのメタ解析では,プラセボと比較してLABA群で肺疾患死の増加,抗コリン剤群で73%の低下が認められた.

Salpeter SR, Buckley NS, Salpeter EE. Meta-analysis: anticholinergics, but not beta-agonists, reduce severe exacerbations and respiratory mortality in COPD. J Gen Intern Med. 2006;21:1011-9.

ガイドライン改定にあたって新しいdataはなかったが,後になって以下の大規模無作為試験の結果が発表された.

・中等症から最重症(平均%FEV1 52%)COPDにおいて,TioSALと比較して最初に急性増悪をおこすまでの期間を延長し (primary outcome),急性増悪の総数を減らし,重篤な急性増悪を減らす.

POET-COPD Investigators. Tiotropium versus salmeterol for the prevention of exacerbations of COPD. N Engl J Med. 2011;364:1093-1103.

Health-Related Quality of Life and Dyspnea


Adverse Effect
2件のRCTsによると,ICSplacebo3年間の骨折の発生は有意差なし.しかしLung Health studyにおいてはtriamucinolone吸入群でlumber spinefemur bone densityがわずかにプラセボ群より低下していた.

2007年の報告後,adverse eventに関するメタアナリシスが2件あった.①ICS単剤吸入は,肺炎のリスク増大や,1年死亡率,骨折の増加を認めなかった,②4つのtrials48週から24か月)において短時間,または長時間作用性抗コリン薬は,主要な心血管イベントとの関連を認めた,しかし8つのRCTs6週から6か月)では関連を認めなかった.

FDAはこのメタアナリシスに関して問題点を示している.

Evidence for Using Monotherapies in Patients With FEV1 Between 50% and 80% Predicted

・症状があり,50<%FEV1<80%の患者,またはnormal airflowの患者(肺機能が正常だが慢性的に喀痰がある患者, at-risk)では,ICS,または,短時間,長時間作用性抗コリン薬を少なくとも1年続けても,急性増悪,QOL,入院,死亡に有意差はなかった.このデータは2007年以降2件の報告を新たに追加した.

 
Effect of Combination Therapies for COPD
2007年のACPガイドラインではいつ単剤治療からコンビネーション治療に変えるかを明確に示すことができなかった.その時点ではコンビネーション治療は単剤治療に比較してbenefitを示すことができなかった.

症状を有する%FEV160%未満の患者を対象とした2件の大規模試験にて,combination治療は単剤治療よりもbenefitを認めたが,他の試験ではこのbenefitは示されなかった.様々なコンビネーションの検討がなされていないため,どの組み合わせがよいかというエビデンスもない.最近のコクランレビューではコンビネーション吸入治療の相対的有効性と安全性は不正確である.なぜなら現在の研究では観察されたアウトカムデータと比較した失われたデータの割合は,介入効果における臨床的バイアスを生じるのに十分かもしれないためである.

Exacerbations, Hospitalizations, and Mortality
コンビネーション治療(SFC)と単剤治療(Tio)を比較した試験.
平均%FEV1 39%1323人,2年間の比較.Secondary end pointsである全死亡の減少と,健康関連状態スコアの臨床的有意な改善の増加を認めた.両群で急性増悪の全発生率.入院の必要な急性増悪発生率,少なくとも1回の急性増悪を有する患者の割合,FEV12年目の平均変化には有意差なし.

TORCH試験は%FEV160%を超える患者の割合は15%未満であったが,単剤治療(SAL, Fluticasone, placebo)に比べコンビネーション治療で年間急性増悪率が減少したが,その低下は臨床的に有意なものではなかった.

別の無作為試験では,中等度から重症のCOPD(気管支拡張薬吸入後%FEV1 <65%)患者を対象とし,SFF+Tio  vs. Tio+placeboの比較試験を行った.コンビネーション群では急性増悪発生率に影響を与えなかったが,肺機能,健康関連QOL,入院に影響を与えなかった.

UPLIFT試験は5993人を対象とした研究であるが,Tio+他の非抗コリン薬 vs. placebo+他の非抗コリン薬の効果を4年間にわたって調査した.この研究はプラセボ群との「真の」検討はできなかった.なぜならプラセボ群の90%以上が試験期間中に何らかの他の吸入薬を使用していたからである.このうち約2/3LABAICSまたはICS/LABAを使用していた.

Health-Related Quality Life and Dyspnea


Adverse Effects
Combination therapyの有害事象
2007年のガイドラインは以下の2つの研究にてupdateSFCTio単独治療と比較して肺炎が多い(8% vs. 4%; P=0.008)

一方UPLIFT試験ではプラセボ群と比較してTio群にて有意に心筋梗塞のリスクが減少した.脳血管障害のリスクには差がなかった.

Evidence to Use Combination Therapy in Patients With FEV1 Between 50% and 80% Predicted

%FEV150-80%の患者において,LABA/ICS combination therapyはプラセボと比較し,急性増悪,死亡,健康関連QOLの改善について有意差なし.

・別の研究では,サブグループ解析にて最初に急性増悪をおこすまでの時間と,入院に至った急性増悪までの時間が,コントロール群と比較してTio群で長かった.

Pulmonary Rehabilitation
2007年のガイドライン:もともと呼吸器症状があり,平均%FEV1が約50%未満の患者において,呼吸リハは呼吸器症状の改善,QOLの改善,6分間歩行試験の改善が,リハプログラムを終了して少なくとも短期間得られる.しかし気流閉塞があまり重篤でない患者のデータ明らかでなかった.今回のガイドラインでは,中等度のCOPD患者においても,呼吸リハのbenefitがあるevidenceを示した.重症COPDに関する呼吸リハの新たな情報はない.しかし最近報告されたRCTにおいて,中等症から重症のCOPD患者(%FEV1 < 70%252例を対象に,outpatient hospital-based呼吸リハとhome-based呼吸リハを8週間にわたって比較した. 平均%FEV143%.約1/3が中等度(GOLD stage II)COPD99%が息切れの自覚あり.Chronic Respiratory Questionairedyspnea domainSGRQtotal scoreの改善は,両interventionで同等.3か月の時点におけるベースラインからの呼吸苦の改善は,両interventionで有意な改善を認めた.しかし12か月の時点では,home-based呼吸リハ群のみが有意な改善を認めた.

Supplemental Long-Term Oxygen Therapy


Summary
 病歴と身体所見は気道閉塞,重症度の指標として十分でないことが示されている.しかし以下の3つの所見のすべての組み合わせ ー①喫煙歴が55-pack-year,②聴診にてwheezingが聞かれる,③患者による喘鳴の訴えー は,気流閉塞(気管支拡張薬吸入後のFEV1/FVC0.7未満)の予測因子である.

治療:
・ほとんどの研究で,単剤治療はどれも効果に差がないことが示されている.
・長時間作用性吸入薬はプラセボや,短時間作用性抗コリン薬と比較して,急性増悪の頻度を減らす.しかし入院や,死亡を減らすかについては結論が出ていない.
・様々な吸入薬のコンビネーション治療は,急性増悪や,入院死亡を減らし,健康関連QOLを改善することを示した報告がある一方で,そのようなbenefitがないとする報告もある.さらにコンビネーション治療による中等度の有害事象増加を報告した研究もある.
・最後に,有用性を示した研究においても,コンビネーション治療をいつ単剤治療から変更するかは示されていない.

呼吸リハ:
呼吸リハは%FEV1< 50%の患者において症状を改善する.しかし呼吸リハの一般化がすべての患者に有益か否かは不明である.

酸素療法:
我々はLTOTの評価にガイドラインのupdateは行っていない.2007年のガイドラインでは,重症の安静時低酸素血症(PaO2 55mmHg以下)患者に長期酸素療法を行うと死亡率が減少することをしめしている.